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日本衛生広報誌

WATER+ vol.7

2019年5月発行/日本衛生広報誌「WATER+ vol.7」
●北海道水紀行/200万都市札幌の水がめ「豊平峡ダム」
●水は何色ですか?


 

北海道水紀行/200万都市札幌の水がめ「豊平峡ダム」

市民や観光客に人気のアーチ式コンクリートダム

放物線を描く流麗な堤体

札幌市を貫流する豊平川。市中心部から上流へ遡ってみましょう。左右のビル群が遠ざかり、山々が近づいてきます。簾舞地区の藻岩ダムを過ぎ、豊滝地区の小金湯温泉近くにある砥山ダムを超えると、1926(大正15)年竣工の一の沢ダムによってできた景勝地「舞鶴の瀞」に。美しい緑を眺めながら、さらに上流へ向かうと、札幌の奥座敷と呼ばれる定山渓温泉。さらに遡り、薄別川との合流点を左に折れ、キャンプ場やコテージなどがある定山渓自然の村(定山渓地区)を左手に眺めると、やがて「豊平峡ダム」の巨大な堤体が見えて来ます。
1972(昭和47)年竣工のアーチ式コンクリートダムで、堤頂高102・5m、堤長305m、総貯水量約4700万立方㎡。アーチダムは水壁にかかる水圧を両側面の岩盤で支える、弦を引いた弓のように湾曲した堤体が特徴です。設計は複雑になりますが、コンクリートの使用量が少なく済み、重力式に比べ工費が圧縮できるなど経済性に優れています。
しかし、水圧に耐えられる強固な岩盤の存在が絶対条件になるため、アーチダムは豊平峡ダムを含め道内に2基しかありません。国内を見渡してもその数は少なく、アーチダムの代表ひとつである黒部ダムは、堤体を補強するためのウイングを設けるなど、各アーチダムは水圧に耐えるための様々な工夫を凝らしています。
豊平峡ダムも当初、重力式が検討されました。河床に弱い部分が見つかり、この部分に力が集中する重力式よりも、V字形に切り立つ両岸の強固な岩盤に力を伝えるアーチ式が採用されました。河床の弱層部には、体重を支えて姿勢を安定させる自転車のサドルや乗馬の鞍のように機能する構造体を構築し、堤体を補強しています。数が少ないアーチ式の豊平峡ダムは全国のダムマニアからも注目されています。

豊平川の豊かな流れのもとに

豊平川の治水をはじめ、人口増加を続ける札幌の水道水供給、および水力発電などを行うことを目的に、豊平峡ダムは建設されました。豊平川は千歳市山域を源流に、札幌市を北東方向に貫流した後、江別市との境界で石狩川に合流します。
ちなみに札幌市は豊平川が形成した広大な扇状地の上につくられ、地名の札幌(さっぽろ)はアイヌ語のサツ・ポロ・ぺツ(乾いた大きな川)が語源。また豊平(とよひら)はアイヌ語のトゥイエ・ピラ(崩れた崖)が由来になっています。
水量が豊富で流れが速く、蛇行を繰り返す豊平川は度々氾濫を起こし、その治水は常に最重要課題のひとつとなってきました。反面、豊かな水量は緑を育み、水を清らかに磨き、市民の暮らしや産業活動に様々な恵みを与え続け、札幌市の発展の原動力になってきました。
戦後、札幌市の人口は急増し、豊平峡ダムは札幌市の巨大な水がめとして機能を果たしてきましたが、1984(昭和59)年には150万人を超えるなど、札幌の人口増加が続き、新たなダムの必要性が高まり、定山渓温泉を挟んで流れる小樽内川に1989(平成元年)、重力式コンクリート「定山渓ダム」が完成しました。両ダムは現在、200万都市札幌の水がめとなっています。

新緑や紅葉時は大勢の観光客が訪れる

ダム湖百選に選定される豊平峡ダムの「定山湖」をはじめ、水源の森百選に選ばれる上流部の国有林「奥定山渓国有林水源の森」など、ダム周辺は豊かな緑に包まれています。
ダムサイトは遊歩道、展望台、レストハウスなどが整備され、市内有数の観光スポットとして機能しています。ダム天端(てんば=堤体の最上部。歩けるようになっている)から見わたす風景は美しく、新緑や紅葉時は札幌市民や観光客が大勢訪れます。また毎年6月から10月にかけて実施される、貯水池の水を下流部に流す迫力の「観光放流」は人気で、舞い上がる水しぶきで虹がかかることがあり、インスタ映えすると評判です。
ダムは支笏洞爺国立公園内でもあり、環境保護のためダム入口の冷水トンネルからダムサイトまで自転車を含め車両の乗り入れは通年禁止になっています。冷水駐車場に車両を置き、電気バスに乗車してダムへ向かうことになります。徒歩で行くことも可能で片道30分程度かかります。冬期間は運行休止ですが、春になると再開されます。楽しんではいかがですか。

紅葉のシーズンには多くの観光客が訪れる

電気バス(有料)

展望台には無料のケーブルカーが利用できる

 

 

 

 

 

もう一つの水がめ「定山渓ダム」

豊平峡ダムよりも高い117・5mの堤頂高がある定山渓ダム。定山渓温泉からクルマで約10分の場所にあり、下流域に整備されたダム園地から、そびえ立つ堤体を間近に見ることができます。園地内には定山渓ダム資料館があり、ダム工事のジオラマ模型やダム周辺の自然環境を説明するパネルや模型が展示されています。また上水道や発電の仕組みを紹介する映像や体験装置もあり、ダム内部が見られる「ダム内見学通路」も一般公開されています。一直線に続くトンネルには、ダムの目的、構造などを分かりやすく解説したパネルが並んでいます。堤頂に続く遊歩道階段もあり、美しい「さっぽろ湖」が一望できます。開館は4月下旬から。道内一高いダムも訪れてはどうでしょうか。


 

水は何色ですか?

グラスに注いだ水は無色透明。
でも時折、赤色を帯びたり、濁りがあって透けて見えるはずの向こうが見えにくいなど、
無色透明でない状態になる場合があります。そのとき、水中では何が起きているのでしょうか。
色や濁りは水の状態を知る手がかりになります。

海の水はなぜ青色?

無色透明な水がたくさん集まった海は青色に見えます。どうしてでしょうか。水は水素原子(H)2個と酸素原子(O)1個からなる分子がたくさん連なっています。この水分子は波長の長い光(赤〜黄色)を吸収する性質を持っているので、光は海中を進むほど赤〜黄色を失い、やがて青色だけが残ります。この青色の光が海中に浮遊する物質、岩、海底などにぶつかり反射して、海は青く見えるのです。(図1)

色とは、物質が特定の波長の光を反射することであり、色の違いは光の波長の違いに対応しています。例えば緑色の波長は500〜570ナノメートル、オレンジ色は590〜620ナノメートル。植物の葉が緑色なのは前記の波長の光を反射するからです。水道水が黄色に着色されていたら、570〜590ナノメートルの波長の光を反射する物質が溶け込んでいることを示しており、物質の種類を推測する手がかりにもなります。
色が光の反射なら透明は光の通過と関係しています。水と同じく透明な物質にガラスがあります。主原料の石英は透過性の多結晶体ですが、結晶と結晶の境目で光が反射(散乱)するため通常は白っぽく見えます。この石英を加熱すると結晶構造が緩み、液体に似た網目状の構造に変化して、光はすべて向こう側へ通り抜けます。もしガラス内部に細かな傷や異物が残存していると光は反射し、光の通過量は減少して透明度が低下します。水も同様に浮遊物や微粒子が混じる“濁り”の状態にあるときは、光の通過量が減少し透明性が失われていきます。混じる物質や浮遊物が多いほど透明度は低下します。(図2)

色のサインを読み取る

水道水は水道法により水質基準が定められています。その中で水道水の色や濁りに関する基準値も「色度」「濁度」という項目の中で設定されています。前者はどの程度“黄褐色”を帯びているか、後者はどの程度“不透明”であるかを測定します。色の濃さや不透明さの度合いが段階的に数値化されており、色度は5度、濁度は2度が基準値になっています。これを超えた水は原因を追及し、改善しなければ、飲料水として使用することはできません。
色の変化は黄褐色だけとは限りません。例えば赤い水道水が出て驚いた経験を持つ人はいると思います。次ページで説明するように、この現象の原因のほとんどは、水道管の老朽化により配管内壁に発生した赤褐色の鉄錆によるものです。鉄に毒性はなく、濃度が高くなければ健康の心配はありませんが、水の味が悪くなる、洗濯物を褐色に染めるなど、生活の快適性に悪影響を及ぼす可能性があります。
同じように亜鉛、銅、マンガンなどの物質も溶け込むと、水を青色や黒色などに着色することがあります。これらの物質も濃度の基準値が水道法で定められています。色の変化に気づいた場合は関係機関に問い合わせることが大切です。
当社環境分析センターでは、色度や濁度を測定する専用装置はもちろん、水に溶け込んでいる物質の種類や量を正確・迅速に測定する「誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)」など最新機器を設置し、水道水を含め各種の水質検査・分析を行っています。水の“健康状態”に不安を感じたら、お気軽にご相談ください。

誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)
プラズマ(ICP)によってイオン化された原子を、質量分析計(MS)に導入し、元素の検出を行う。飲料水中の金属をppbレベルで高感度に検出。ほぼすべての重金属を一斉に測定できるため、水質分析では盛んに用いられる。
当社では飲料水の濁度や色度、pH値、味、臭気、一般細菌、大腸菌など様々な検査に対応し、法令により定められた検査項目について高精度な分析を実施します。

分子のダンス

水は溶解力の強い物質です。ほとんどの物質を溶かし込みます。
溶け込んだ物質が水中で化学反応を起こし、性質が変化したり新たな物質を生成することがあります。
これに伴い水の色が様々に変わる場合があります。
色の変化は水中を舞台に演じられる、分子のダンス(反応)と言えます。

赤水の原因物質「鉄イオン」の踊り方

前頁で触れたように、水道水が赤くなる、いわゆる赤水の問題は、最も多く発生するトラブルのひとつ。鉄製の水道管が時間の経過とともに腐食(酸化)し、生成した赤色の錆が水道水とともに蛇口から出てくることにより起こります。鉄がどのように酸化し、赤くなるのか、その過程をのぞいて見ると、興味深い分子のダンスが観察できます。
鉄の原料は鉄鉱石。鉄と酸素からなる鉱物で、もともと錆びた状態(酸化物)で地殻に存在します。その鉄鉱石から酸素を分離してできたのが鉄。化学的に不安定で、常に元の姿に戻ろうとします。酸素と水の両方が得られる環境に置くと酸化し始めます。水道管は錆びるのに絶好の環境にあると言えるでしょう。赤褐色の鉄錆は次のように生成します。
鉄は水に触れると電子を放出し、イオン化して水に溶け込みます。水中の酸素は放出された電子を捉えて水酸化イオンに変化し、鉄イオンと反応して2価の水酸化鉄(水酸化第一鉄)になります。この段階ではまだ淡緑色で、低濃度だと無色透明に見えます。この水酸化鉄がさらに酸化し、三価の水酸化鉄(水酸化第二鉄)になった段階で初めて赤褐色になります。これが鉄錆です。(図3)

水道水をしばらく出していると赤水が無色透明に戻ることがあります。これは水中に沈殿した赤錆が洗い流されるからです。しかし錆の生成は続くので赤水は繰り返し発生します。水道管の法定耐用年数は40年。1970年代に整備した水道管は更新時期を迎えており、赤水発生の可能性があります。

水質状態を診断する最新機器

当社では鉄を含め水中に含まれる金属物質の測定には、最新機器「誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)」を使用しています。この機器は測定する物質を約8000℃の高温ガス(プラズマ)でイオンに分解し、そのイオンを質量数ごとに収束、ふるい分けて、金属の種類と量を確定します。時間も数分で終了します。
色度も最新の専用装置を使用しています。検査する水に特定の波長の光を照射し、透過する光の量を測定します。照射した光と透過した光の量を比べ、どのぐらいの量の光が吸収されたかを算出し、その差によって色度を確定します。透過光測定法と呼ばれています。
濁度も専用の装置を使用しています。検査する水から反射する光の量と、通過する光の量を測定し、その比率を求めて、濁度標準値との比較から濁度を確定します。
なお、色度や濁度の測定では、検査員が水を口に含んで味の検査も併せて行っていますが、色度や濁度に異常が認められた場合、検査員の健康を考慮して、味の検査は省略させていただくことがあります。なにとぞご理解のほどよろしくお願いします。
当社環境分析センターは水道水質基準のほか、下水道、地下水、井戸水、公衆浴場、遊泳用プール、農業用水など、使用目的ごとに異なる水質基準が設定されている水質検査や、河川、海域、工業用水、浄化槽など、環境に影響を与える可能性のある場所の水質分析など、多岐にわたる水質検査を行い、豊富な経験とノウハウを蓄積しています。水質検査に関することなら、どのようなことでも対応いたします。お問い合わせください。

2019年4月発行/日本衛生広報誌「Water+ vol.7」より

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