1. HOME
  2. バックナンバー
  3. WATER+ vol.8

日本衛生広報誌

WATER+ vol.8

2019年11月発行/日本衛生広報誌「WATER+ vol.8」
●全国に誇る北海道の名湯「登別温泉」
●温泉の成分分析


 

全国に誇る北海道の代表的な名湯「登別温泉」

全国温泉地人気ランキングでも常に上位に選ばれる登別温泉。
江戸時代に開湯し、明治時代から保養地として広く名を知られるようになりました。
自然湧出量1日1万トン、9種類の泉質が湧く「温泉のデパート」と呼ばれています。

様々な泉質を1カ所で楽しめる

登別温泉の魅力はなんといっても泉質が豊富なこと。例えば温泉法で療養泉に分類される硫黄泉がこんこんと湧き出ています。
江戸時代、地獄谷の硫黄採掘に伴い湧出が発見された、同温泉でもっとも古くから浴用に利用されてきた泉質の温泉で、温泉のにおいといえばこれ、と誰もが感じる独特の臭気(腐卵臭)が特徴です。温泉水1㎏中に2㎎以上の総硫黄(硫化水素イオン・チオ硫酸イオン・遊離硫化水素)を含むもので、毛細血管の拡張作用が強く、動脈硬化や慢性気管支炎などを始め、慢性皮膚病、糖尿病などに効果があるとされています。
また鉄泉も人気です。総鉄イオン(第2鉄・第3鉄)を20㎎以上含むもので、体がよく温まり、冷え性を改善するとされ、女性から注目されています。ほかにリウマチや慢性湿疹などに効果が期待できると言われます。
女性に人気の湯といえばナトリウム炭酸水素泉もあり、登別温泉でも楽しめます。温泉1㎏中に含まれるガス性以外の物質の総量(溶存物質総量)を1000㎎以上含み、陰イオンとして炭酸水素イオンを、また陽イオンとしてナトリウムイオンを主成分にするもので、湯は無色透明です。女性に人気の理由は「美人の湯」とも呼ばれる美肌効果が期待できること。皮膚の角質層を軟らかくし、肌の汚れや分泌物を落とすクレンジング効果があるとされ、皮膚病、切り傷、火傷にも効果があると言われます。

地獄谷と大湯沼川の足湯

登別温泉で最大の見所となっている地獄谷は、噴火により出来た爆裂火口で、広さは直径約450m面積11ha、高温の温泉や噴気の吹き出し口が多数あり、その景観が地獄のようだということから「地獄谷」の名前がつきました。支笏洞爺国立公園の特別保護地区に指定されるほか、北海道遺産にもなっています。遊歩道が整備され、地獄谷展望台に登ると全体の様子が見渡せます。秋になるとナナカマドやヤマウルシなどの木々が紅葉し、見応えがあります。
ちなみに登別温泉には15カ所の地獄があります。そのひとつ「大正地獄」は、大正時代の火山活動によって出来たもので、熱泉が高さ3mも噴出する間歇泉に加え、温泉の色が青やピンク色など数色に変化するなど、大変に個性的な地獄です。残念ながら観光客の安全を考えて現在は立ち入り禁止になっていますが、一度は見てみたい地獄です。
地獄谷とともに登別温泉で外せないのが大湯沼。原生林の中に続く散策ルートを歩いていくと、荒々しい山肌を見せて噴煙を上げる日和山の麓に広がる湯の沼「大湯沼」が見えてきます。近づくと沼の底から大量の温泉が湧く様子を見ることができます。泉温は底で130℃、表面でも50℃近くあります。この大湯沼から溢れ出た湯が川となって流れているのが大湯沼川。この畔で楽しむ足湯が大人気になっています。川べりには丸太を組んだデッキが設置され、ここに座ってのんびり湯に足を浸すことができます。浅いので裸足でじゃぶじゃぶ歩くことも可能です。この秋はぜひ楽しんでください。

大湯沼は日和山が噴火した時の爆裂火口跡で、地獄谷の北側にある。周囲約1キロメートル、深さ22メートルのひょうたん型をしており、このような大規模な湯の沼は世界的にも類がなく、学術的にも貴重なものとされている

【地獄谷の鬼花火】登別温泉の守り神「湯鬼神(ゆきじん)」たちが、無病息災、厄払いを祈願するため、噴火した地獄谷をイメージした「手筒花火」を打ち上げるイベント。毎年6、7月に開催される。

大湯沼川の足湯


 

温泉の成分分析

北海道には200を超える温泉地と2000におよぶ源泉があります。
含まれる成分の種類や量などにより治療を目的に利用できる温泉もあり、観光やレジャーだけでなく健康増進に役立つ大切な資源と言えます。
わたしたち日本衛生㈱環境分析センターでは道内全域を対象エリアに、泉質や効能を判定するデータとなる温泉の成分分析を行っています。
分析は現地試験と室内試験からなり結果内容は成分分析報告書として集約し、お客様にご報告、ご説明いたします。
分析のスタートとなる現地試験の実際の様子を含め分析の流れを紹介します。

古平町の海を望みながら

温泉は変化する生き物

夏の日射しが強烈な8月下旬。温泉の成分分析を担当する検査技師・外崎亮太(とのさきりょうた・2014年入社)は、積丹半島の北東部に位置する古平町の日帰り温泉「ふるびら温泉しおかぜ」を訪れた。
日本海を望む高台にある同温泉は近隣で最も人気のある温泉施設の1つで、ニシン漁で栄えた歴史を持つ同町の番屋をイメージした外観と、濃厚な褐色の湯が特徴。外崎は同館担当者とともに施設そばの源泉口を保護するピットの重いマンホールを開け、内部の安全を確認した後、体を静かに降ろして取水栓を開いた。意外にも噴出する源泉は無色透明だった。
「温泉は含有する成分によって空気に触れると変色することがあります。源泉の色が浴槽に送られるまでの間に変化するのは珍しいことではありません。地殻変動により湧出量や成分組成なども変わることがあります。温泉は常に変化する生き物です」と外崎。
取水栓からの源泉を容器に受け、温度計で泉温を測定する。「源泉が湧出する場所は様々で、半日がかりで道なき道をかき分け、山中に湧出する源泉にたどり着き、汗だくになりながら測定することもあります。今回は施設のすぐそばにあり、体力消耗という点では心配ありませんが、ピット内の空間が狭く体勢が窮屈なのがちょっと辛いですね」と笑う。
マンホール孔に手をかけて上半身を引き上げ、機材などを詰めたボックスやバッグをたぐり寄せ、試験に必要な計測器や採水ボトルを取り出す。「現地試験の項目には水素イオン濃度や電気伝導率の測定も含まれています。水素イオン濃度は温泉を酸性泉からアルカリ性泉まで5分類する基準になるもので、サラサラ、ヌルヌルといった肌に当たる温泉の感触は、この濃度の違いによるものです。電気伝導率は温泉が含有する物質の総量を把握する目安になります。伝導率が高い温泉ほど物質を多く含んでいることを意味します」と説明する。

温泉利用の促進にも活用を

強い日射しに打たれ、外崎のヘルメットの下から汗が流れ落ちる。それにかまうことなく作業を進める。試験管に温泉をとり、黒色の紙を背景にして色や濁り具合などを透かして見る知覚(官能)試験や、温泉を採取したボトルに試薬などを投入する試料の固定作業などを次々にこなしていく。
「温泉成分は種類により時間の経過とともに変化したり、消失するものがあります。特に金属成分や硫黄などは変化しやすく、これを防止するために施す措置を固定化と言います。大切な作業です。」と外崎。
現地試験のスタート時には真上にあった太陽が少し西に傾きかけた頃、作業は終了した。「分析試験を含め全ての作業が完了し、成分分析報告書としてまとまるのはおよそ4週間後です。決して短いとはいえない時間をかけて分析したその結果内容は、温泉の利用を改めて促進する最新データとしても活用できることを積極的に提案していきたいですね」と外崎は力を込めた。

最新鋭装置を使用して成分分析

10年ごとの再分析が義務化

現在、国内において温泉を公共の浴用などに提供することを計画する事業者は、1948(昭和23)年公布の温泉法に基づき、温泉の成分分析を必ず実施し、その分析結果の内容を記載した「温泉分析書」を添付して、都道府県知事などの営業許可を受けることが必要になっています。
温泉法は温泉の保護をはじめ、温泉採取に伴い発生する天然ガスによる災害防止、安全で適正な温泉の利用などを目的にしたもので、分析方法は原則的に国が別に示す「鉱泉分析法指針」に従うこととされ、成分分析を実施する機関は各都道府県に登録されている「登録分析機関」が行うことが定められています。
温泉分析書は源泉名、泉質、泉温、分析年月日、禁忌症(1回の入浴または飲用でも身体に悪影響をきたす可能性のある病気や病態)など12項目からなり、温泉施設への掲示が求められています。注意しなければならないのは、許可を得て実際に温泉利用事業を行っている事業者も、2007(平成19)年の同法改正により、分析終了日から10年以内の定期的分析(再分析)の実施が義務付けられていることです。
改正の目的は、2004(平成16)に発覚した、いわゆる温泉偽装問題によって損なわれた温泉に対する利用者の信頼回復と、再発の防止をはかるもので、10年が経過するまでに必ず再分析を実施し、成分変化の有無に関わらず、温泉分析書を更新しなければならないと定められています。
従来の成分と異なる結果内容が判明した場合は、その変更内容を事前に都道府県知事へ届け出ることが必要になります。違反した場合は罰則規定があります。ただし、泉質が変わっても温泉法で定義される温泉に適合している限り、利用許可そのものを取り直す必要はありません。

豊富な実績とノウハウを蓄積

温泉法によって定義される温泉(鉱泉)は、源泉の温度が摂氏25℃以上のもの、もしくは同法で定める19物質のうち規定量を超える物質を1つ以上含んでいる泉水とされます。規定量は百万分の1(ppm)単位、特殊な物質も含まれているため、温泉の定義に適合しているかについては、先に述べたとおり専門の登録分析機関が行った成分分析に基づき判定されます。
私たち日本衛生㈱環境分析センターは、2008(平成20)年に北海道知事に登録している温泉分析の登録分析機関です。道内全域を検査区域にして、新規分析および再分析を数多く実施しています。成分分析は温泉が湧出する現場で行う現地試験と、現地で採取した温泉(試料)を当センターに持ち込んで行う室内試験からなります。
現地では冒頭でも紹介したように湧出量、泉温、pH値(水素イオン濃度)、電気伝導率の測定、知覚試験、サンプリングのほか、可燃性天然ガス(メタン)濃度の試験も行います。可燃性天然ガス濃度の測定は、2008(平成20)年から施行の改正温泉法に基づくもので、環境大臣が定める方法により測定し、温泉に含まれるメタンが基準値以下の場合は確認申請、基準値以上の場合はメタンガス分離設備を設置して北海道知事へ許可申請を出すことになります。
室内試験は、様々な分析法や分析機器を用いて行います。分析項目は数十項目にのぼります。当センターでは鉄やアルミニウムなど微量金属の測定には、水溶液中の金属をナノレベル(10億分の1)まで検出できる最新鋭の分析装置「誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)」を使用しています。
この装置は試料中の物質をプラズマによってイオンにまで分解し、質量ごとに収束・ふるい分けし、金属の種類や量を明らかにする分析器で、健康に直接的な影響を与えるため特に正確な分析が求められる水道水の水質検査によく用いられている装置です。分析が完了すると、結果内容を成分分析報告書にまとめ、お客様へご報告にお伺いします。
豊富な実績とハイレベルなノウハウを蓄積する当センターの成分分析は、多くのお客様から揺るぎない信頼を得ております。温泉の成分分析に関することなら、どのようなことでもご相談ください。お問い合わせをお待ちしております。
当センターではこのほか、水道水・飲料水・給湯水・雑用水・浴槽・プール・環境水などの水質検査を始め、土壌分析、レジオネラや大腸菌などの細菌検査、室内空気化学物質測定、ボイラーの煤煙測定など各種検査や分析を行い、安心安全な生活や産業活動に貢献しています。

誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)
プラズマ(ICP)によってイオン化された原子を、質量分析計(MS)に導入し、元素の検出を行う。
水中の金属をppbレベルで高感度に検出。ほぼすべての重金属を一斉に測定できるため、
水質分析では盛んに用いられる。

2019年11月発行/日本衛生広報誌「WATER+ vol.8」より

●WATER+ vol.8 PDF版(1.8MB)

●WATER+ バックナンバー一覧