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日本衛生広報誌

WATER+ vol.6

2018年10月発行/日本衛生広報誌「WATER+ vol.6」
●北海道名水紀行/北海道最古の水道専用ダム「奥沢水源池水道施設」
●イオンを捕獲する


 

北海道水紀行/
北海道最古の水道専用ダム「奥沢水源池水道施設」

小さな滝が連なって流れる階段式溢流路が全国的に有名

商都小樽の水源

北前船の寄港地として明治以前から多くの商船が行き交った小樽。明治以降は北海道開拓に伴い人材や物資がさらに流入し、活発な経済活動が展開され、道内随一の商都として繁栄したことは、よく知られています。
その小樽の市街地を流れる中心河川が勝納川。市民から愛される天狗山の近くにある於古発山(おこばちやま)を源にする二級河川で、その豊な水量と清らかな水質を求めて、かつては流域にいくつもの酒蔵が建ち、地酒を作っていました。
その勝納川上流部の奥沢に、道内初の水道専用「奥沢水源池水道施設(通称・奥沢ダム)」が建設されたのは、小樽の発展を牽引した小樽運河が完成する約10年前の1914(大正3)年でした。

美しい〝水すだれ〟に見惚れる

当時、飲料水は井戸水や湧水を利用していました。人口急増により水不足が懸念され、日本の近代水道の父と言われる中島鋭治工学博士の指導のもと、約7年の歳月をかけてダム工事が行われました。完成により清潔で美味しい水道水の供給が実現し、市民の暮らしと産業活動を支え続けました。
奥沢ダムが全国に知られる理由は、貯水池の水位が一定レベルに達して吐き出した水を勝納川に戻す施設「階段式溢流路(かいだんしきいつりゅうろ)」を下る水流の美しさにあります。
落差は約21メートル。10ステップある階段は、基礎と表面の石材をコンクリートで一体化した練石積(ねりいしづみ)工法で造られています。長いものと短いものを交互に配置した石材の目地などにより筋状になった水が、ステップごとに小さな滝を作って流れ下る独特な水流を市民は「水すだれ」と呼びました。
特に夏は周囲の濃い緑とのコントラストが目にまぶしく、涼感あふれる景観美はオアシスのように暑さを忘れさせ、いつまで見ても飽きることがありません。その美しさは1985(昭和60)年の厚生省「近代水道百選」や、2008年の土木学会「選奨土木遺産」の選定理由にもなりました。

練石積(ねりいしづみ)工法で造られた階段

美しい「水すだれ」

 

 

 

 

 

全国のダムマニアが訪れる

市民から愛されてきた奥沢ダムは、供用開始から1世紀を目前にした2011(平成23)年、ダム堤体に大きな陥没が見つかり、改修には多額の費用が見込まれることから、惜しまれつつ長い歴史に幕を下ろしました。ただ、階段式溢流路については高い歴史的価値を考慮し、保存に努めることが決まりました。
現在、春から秋までの天候が安定している昼間、旧奥沢ダムの水管橋(川などを超えて水を運ぶ橋)が開放され、溢流路を間近に眺められるようになっています。市民はもとより、全国のダムマニアが訪れ、水すだれを楽しんでいます。

奥沢ダムの水管橋と取水塔

■奥沢水源池水道施設
<住所>小樽市天神2丁目
<交通>小樽駅前発 奥沢線「北海道中央バス」 「天神」停留所から徒歩15分
※開放期間および時間は小樽市水道局総務課へご確認ください。

「小樽の水」を味わう

奥沢ダムの水道水は、2005(平成17)年からボトルウォーター「小樽の水」としても発売され、話題になりました。ボトルウォーターとは、水道水の美味しさや水道事業の理解促進などを目的に、全国の水道事業体がペットボトルなどに詰めて販売するもの。北海道では「小樽の水」が最初となりました。現在、道内では5種類が販売されています。奥沢ダムの廃止に伴い「小樽の水」は、小樽市内の朝里川温泉に近接する朝里ダムの水道水を使用し、販売を継続しています。同ダム湖畔園地のダム記念館や市役所などの公共施設をはじめ、市内のスーパーや自動販売機で購入できます。小樽の旅のついでに一度味わってはいかがですか。


 

イオンを捕獲する。

誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)で水道水の微量金属を検出。

身近にある有害金属、生活の質が低下する金属。

多数の温泉や鉱山を有する日本は、自然由来による有害金属に汚染された地域が多く存在します。北海道札幌市も例外ではなく、特に温泉由来のヒ素を含む土壌が広範囲に分布しています。ヒ素を含んだ温泉水が近くにあり、それが地下水へ混入したり、または土壌中のヒ素が地下水に溶けだすことで地下水が汚染されることがあります。現在も環境基準を超える井戸水(地下水)の存在が市内各区で確認されています(関心のある方は札幌市ホームページを参照ください)。環境基準はより健康的な生活のための行政上の目標で、超過しても健康に直ちに影響を及ぼさないとされていますが、定期検査など継続的な監視が必要です。
ちなみにヒ素は、全国各地の土壌に広く分布する物質で、火山活動、森林火災などにより環境中に放出される天然由来のものと、産業活動に伴い排出されたものがあります。長期・継続的な摂取はガン発生のリスクを高める有害物質として認知されています。
セレンも道内の環境中に広く存在しています。古くは陶器やガラスの着色剤として使われ、近年は電子部品に盛んに用いられています。人に必須のミネラルですが、必要量を超えて摂取すると胃腸障害、皮膚の変色などの健康障害が発生します。ヒ素と同様、継続的な監視が求められます。
水質基準になっている金属はその毒性以外に、味等の生活環境の観点から基準が設定されている項目があります。例えば鉄です。水を不快な臭いや味にして、お茶やコーヒーがまずくなるほか、洗濯すると衣服などを赤褐色に染めます。生活の質を低下させないためにも水質検査は欠かせません。

プラズマによって原素をイオン化。

微量金属の検出に使用する誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)の測定方法の概略は次の通りです。
測定試料を霧状にした後、プラズマトーチとよばれる高電圧コイルを巻きつけた放電管に噴霧します。このプラズマトーチにはアルゴンガスが送られており、アルゴンガスは高電圧によりイオン化され、プラズマと呼ばれる約8000℃にもなる高温のガスとなります。このプラズマによって、試料中の物質は原子やイオンにまで分解されます。これらイオンを質量数ごとに収束・ふるい分けして金属の種類や量を測定するのがICP/MSです。試料の測定は数分で完了します。
プラズマは物質の第4の状態とも呼ばれます。物質は温度の上昇につれ固体、液体、気体に変わります。さらに温度を上げると、原子を構成する電子が軌道から飛び出します(電離)。飛び出た電子を自由電子、電子を失った(もしくは過剰に保持した)原子をイオン、それぞれが自由に飛び回っている状態をプラズマと呼びます。身近なプラズマの例として、雷や蛍光管などがあります。
ちなみにプラズマが燃えているように見えるのは、プラズマの熱によって過剰なエネルギー状態(励起状態)になった原子が、元の状態(基底状態)に戻るときに放出するエネルギーが光になるからです。ICP/MSはエレクトロニクス、材料科学、エネルギー、医薬、バイオ、環境など幅広い分野で活躍しています。

誘導結合プラズマ質量分析計(ICP/MS)

水が出入りする状態が、生きているということ。

水の強い溶解力を利用して、人間も生命を維持しています。たとえば、摂取した栄養素は血液に溶け込み、40兆とも60兆とも言われる細胞に供給されます。老廃物も血液やリンパ液に溶け込んで腎臓に運ばれ、濾過されて体外に排出されます。体内の水分は生命維持のため常に消費され、失った量の水を毎日、外部から補給することになります。この水の出入りする状態を〝生きている〟と言い換えることができます。
日本衛生株式会社は水道水質基準のほか、下水道、地下水、井戸水、公衆浴場、遊泳用プール、農業用水など、使用目的ごとに異なる水質基準が設定されている水質検査や、河川、海域、工業用水、浄化槽など環境に大きな与える可能性のある場所の水質分析など、多岐にわたる水質検査を行い、安心安全な生活や産業活動に貢献し、豊富な経験とノウハウを蓄積しています。
水質検査に関わることならどのようなことでもお気軽に問い合わせください。

 

2018年10月発行/日本衛生広報誌「Water+ vol.6」より

●WATER+ vol.6 PDF版(2.5MB)

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