WATER+ vol.5
2018年6月発行/日本衛生広報誌「WATER+ vol.5」
●北海道水紀行/函館の美しきローマ水道橋
●消毒副生成物を10億分の1単位で追う
北海道水紀行/
函館の美しきローマ水道橋、
日本初のバットレスダム
「笹流ダム」
世界で初めて本格的な水道を建設したのは古代ローマ帝国。人口増加による水不足に対応するため、山麓の水源地からアーチ型の石橋を築き、その上に長い管を設置して水を通し、公衆浴場やトイレ、集会所、住宅などに供給しました。各地に遺跡が残っており、最も有名なもののひとつがスペイン・セゴビア旧市街のローマ水道橋。世界遺産に選定され、各国から多くの観光客が訪れる名所になっています。
そのローマ水道橋を彷彿させるダムが函館にあります。大正12(1923)年に竣工した笹流ダム。函館の市街地から車で約20分。函館新外環状道路と道道347号(赤川函館線)が交わる近辺の丘陵地にあり、気持ちよく整備された前庭を歩くと間もなく、コンクリートの太い柱が格子状に連なる美しいダムが姿を見せます。
市民の水瓶として現在も機能する笹流ダムは、日本初のバットレスダムを選定理由として、平成13(2001)年に土木学会選奨土木遺産に、また平成21(2009)年には経済産業省の近代化産業遺産に認定されました。
バットレスダムとは、川の水を受け止める遮水壁を扶壁(バットレス)と呼ばれる垂直の柱と横桁によって背後から支える構造のダム。笹流ダムのバットレスは23基あり、上部が半円形になっているのが特徴で、この半円形が同じ高さに揃い、同じ間隔で連なっていることにより、ローマ水道橋のようなアーチ型の橋に見えるのです。
ダムの型式をバッドレス式に決定したのは、主流の重力式ダムやアースダムよりも、経費や工期を圧縮できたからです。当時の函館は慢性的な水不足に悩まされ、一刻も早いダムの完成を目指していました。ダム完成により水不足は解消し、産業の発展にも貢献しました。
竣工から60年が経過した頃から、凍害による風化が認められるようになり、本格的な改修工事が検討されました。前例のない工事のため各方面の識者を交えて慎重に計画が練られました。その結果、既設のバットレスに鉄筋コンクリートを巻いて太さを2倍にするほか、遮水壁の背後にさらに新たな遮水壁を追加するなど、ダムの外側に新しいダムを造る、と評された大胆な工事を決定。昭和59(1984)年に難工事を完了させました。
改修によりそれまでの華奢な雰囲気が大きく変わり、重厚感と美しさを増して、いっそう注目されるようになりました。前庭も市民憩いの広場として再整備され、春は桜、秋は紅葉の名所として毎年、賑わいを見せています。ダム湖周辺の森は野鳥が多く棲息し、水辺にはアオサギが羽を休め、湖面にはマガモが遊んでいます。休日にぜひ一度訪れ、ローマ水道橋のような姿と、周囲の豊かな自然に癒されてみませんか。
笹流ダムでは春には満開の桜、秋には美しい紅葉が楽しめ、遠足やジンギスカンなど、レクリエーションの場として、市民に親しまれている。
笹流ダムDATA
【場所】函館市赤川町313
【湛水面積】76,000㎡
【総貯水量】606,000㎥
【型式】扶壁式鉄筋コンクリートダム
【堤高】25.30m
【堤頂長】199.39m
日本人が設計した国内最古の元町配水場
笹流ダムの水は、約9キロ離れた函館山の麓にある元町配水場にも送られています。この配水場には明治22(1889)年に完成した中区配水池と、同29(1896)年完成の高区配水池があり、特に中区配水池は日本人が設計した国内最古の水道施設として知られています。昭和60(1985)年に近代水道百選、平成13(2001)年に土木学会選奨土木遺産、同20(2008)年には近代化産業遺産にも選定されています。
配水場は平成元(1989)年、水道創設100周年の記念事業として改修されました。記念碑や噴水池などの記念施設をはじめ、市街地や港を見渡せる展望広場や、季節の樹木を眺めながら散歩できる散策路などを整備し、市民や観光客に開放しています。中区配水池に隣接の管理事務所は、配水池完成当時の赤レンガ造りの建物が使用されています。函館で最も人気ある元町地区。明治大正のロマン香る街並の中にある元町配水場へも訪れてみませんか。
元町配水場
【場所】函館市元町1-4
【交通】市電「十字街」下車徒歩6分、函館バス「ロープウェイ前」下車徒歩1分
消毒副生成物を10億分の1単位で追う。
水道水には塩素が残留しています。
水道水は給水人口などの規模によりいくつかに分類され、水道事業、水道用水供給事業、専用水道、簡易水道があります。飲用水として供給される水は、常に安全かつ清浄なものでなければなりません。このため水道法により水質基準や施設基準が定められているほか、水道法施行規則において水道水の塩素消毒が義務付けられています。
塩素消毒とは、水に含まれる病原菌やウイルスなどの殺菌を目的に、強い酸化力を持つ塩素を薬剤として投入するものです。末端の蛇口に到達した水道水の中に1リットル当たり0・1ミリグラムを越える塩素が残留し、エンドユーザーが使用する時点においても殺菌効果が持続していることを定めています。
発生が避けられない消毒副生成物は検査が義務付けられています。
安全に飲めるために行われる塩素消毒ですが、塩素は水道水中に含まれる有機物と反応して、水中に新たな物質を生成します。含まれる有機物の量が多いほど、また塩素濃度や水温が高く、滞留時間が長いほど生成物は増加します。これらの物質は「消毒副生成物」と呼ばれ、健康上有害なものが多くあります。
例えばトリハロメタン類、ホルムアルデヒドなども生成します。トリハロメタン類は水道水に含まれる危険な物質としてマスコミにも取り上げられ、話題になったことを記憶している人は多いと思います。ホルムアルデヒドもシックハウス症候群の原因のひとつとして社会問題になり、改正建築基準法で使用が制限されている物質です。
現在、消毒副生成物は12物質が水質基準に設定されていますが、未だ解明されていない物質が多数存在すると言われています。水道法は社会状況や新たな科学的知見を踏まえ、消毒副生成物に関する検査項目を拡大する改正を行っており、2004年の施行からおよそ倍増しています。水道事業者は最新の水道基準の遵守と検査が義務付けられているほか、建築物衛生法で特定建築物に指定されている建物は、使用している水道水に含まれる消毒副生成物(別表参照)の検査を年1回、水温が高くなる6~9月中に、専用水道を所有する施設は年4回実施することが定められています。
対象となる生成物は水中に混在しているため、検査はそれら1つ1つを正確に選り分け、質量を10億分の1(ppb)単位で測定できる高感度な分析機器を用いて行うことが必要です。消毒副生成物の検査には「ガスクロマトグラフ質量分析計(略称GC/MS)」が多く用いられ、この装置を多数設備している検査機関は道内では限られているのが現状です。
最新のGC/MSで正確・迅速に分析します。
私たち日本衛生は、道内でも数少ない水質検査の専門機関として創業以来、さまざまな検査を行い、豊富な経験と高度なノウハウを蓄積しています。消毒副生成物の検査においても最新の「GC/MS」を検査項目ごとに専用として複数台保有し、迅速かつ正確な検査を実施して高い評価を得ています。
GC/MSは、気体の中に含まれている様々な物質の濃度を測定する装置です。例えば私たちが吸っている空気には主成分である窒素、酸素、二酸化炭素のほか、自動車からの排気ガスなどが何種類も混合しています。GC/MSはそれらの物質を成分ごとに分離し、質量を正確に測定します。水道水のように液体を分析する場合は、気体の状態にしてから測定する必要があります。GC/MSの分析測定の概略は次の通りです。
密閉容器へと採水した試料を試料導入部で加熱し、中に含まれている成分を気化させて追い出します。気化された成分は、カラムと呼ばれる分離部へと運ばれます。カラムへの親和性、吸着性などの違いによって成分を分離後、質量分析計と呼ばれる検出器で質量数ごとにふるい分けられます。成分ごとに検出される質量数が決まっているので、成分の特定と高感度測定が可能となります。
GC/MSは消毒副生成物のほかシックハウスの原因物質、高感度測定が要求される農薬などさまざまな検査に威力を発揮します。
水の衛生に関する様々なニーズに対して私たちは、的確にこたえられる経験、ノウハウ、設備を有しています。どうぞお気軽にご相談ください。
2018年6月発行/日本衛生広報誌「Water+ vol.5」より