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日本衛生広報誌

WATER+ vol.4

2017年12月発行/日本衛生広報誌「WATER+ vol.4」
●北の名水紀行/羊蹄のふきだし湧水
●ミクロの世界で水の健康・衛生を監視する


 

北の名水紀行/羊蹄のふきだし湧水

自然の恵みと人の叡智で守る名水の里

倶知安、喜茂別、真狩、京極と広大なエリアに広がる羊蹄山(標高1,898m)は、ふきだし湧水の母なる山。蝦夷富士の愛称でも知られる、富士山によく似た円錐形の成層火山です。一帯は支笏洞爺国立公園に指定されており、自然公園法によって保護されています。7月から8月にかけてのシーズンには、100種類以上の貴重な高山植物の花が開く恵みの山は、キタキツネ、エゾクロテン、エゾリス、エゾシマリス、エゾモモンガ、エゾユキウサギなど北海道固有の哺乳類や130種類以上の野鳥の住処としても知られています。
羊蹄山に降り注ぐ雨や峰を覆うように積もる雪は、やがて大地のフィルターに染み込み、長い年月をかけて濾過され、再び地上へと姿を表わします。雨や雪は時間というプロセスを経てミネラル豊かな名水へと生まれ変わるのです。
多くの人々が訪れる名水の里として知られる羊蹄のふきだし湧水。この北海道を代表する名水がメジャーな存在となったのは、それほど昔のことではありません。この地域一帯の開拓が始められたのは1897年。京極町の由来ともなった四国丸亀藩主ゆかりの京極高徳子爵によって行われました。湧水はその当初から生活に欠かせない貴重な水源として、また聖なる場所として地域の人々の手によって大切に守られてきました。その精神は、東倶知安村、京極村、京極町と町名が変わっても受け継がれ、周辺の樹木の保護や清掃などの地道な努力が近隣の住民や地元小学校の児童たちの手で続けられてきました。
その活動が大きな成果として評価されたのは昭和も末期になった60年(1985年)。優良な水環境の保護というテーマを掲げた当時の環境庁(現・環境省)により「名水百選」のひとつとしてふきだし湧水が選定されたのです。羊蹄山麓一帯の水資源としては、羊蹄の湧水など他にもいくつかの湧水が知られていますが、ふきだし湧水が名水百選に選ばれた理由は、地域の人々による水質環境の保全活動にあったと言ってもいいでしょう。平成2年(1990年)には建設省(現・国土交通省)の生活を支える自然の水(30選)としてふきだし公園が手づくり郷土賞に選定。平成5年(1993年)には湧水を中心に、吊橋や遊歩道、展望塔などを備えた、自然と水が調和した公園として整備・公開され現在のような姿となりました。平成8年(1996年)には国土庁(現・国土交通省)より「名水の里きょうごく」として水の郷百選に選定。さらに平成13年(2001年)には、「京極のふきだし湧水」として北海道遺産にも選定されるなど、同町を代表する水と観光の資源として重要な役割を果たすこととなったのです。
札幌から京極町へは喜茂別町経由で約77㎞、1時間50分程で到着です。水音に誘われるように駐車場から続く道を下ると、目の前に水と緑の絶景が姿を表します。ハルニレ、ハンノキ、シラカバなどの広葉樹が生い茂る中、岩の間からほとばしるように吹き出される湧水は1日約8万トン、約30万人分もの生活用水に相当するほどの流量です。樋を伝って取水口から流れ出る水の温度は年間を通して約6.5度。1リットル当たり23㎎のカルシウムやマグネシウムを含む軟水は、まろやかで飲みやすいこともあって、お茶やコーヒー用にとボトルやタンクを手に訪れる人で賑わいを見せてます。

富士山に似た円錐形の美しい山容から別名「蝦夷 富士」と呼ばれる羊蹄山。広大な 裾野では寒冷地野菜栽培が行われる。羊蹄山の火山性土壌と清らかな水の恩恵を受けた野菜は大きくて甘いと言われている。

羊蹄山一帯に広がる湧水めぐり

道民なら誰でもが知っている羊蹄山ですが、昭和44年(1969年)までは後方羊蹄山(シリベシヤマ)が正式名称だったという事実はあまり知られていません。このシリベシという読み方、アイヌの人々の言葉のように思われますが、もとを正せば古代の日本語。現代の言葉に翻訳すると「シリヘ(後方) + し(羊蹄)」となるのだとか。斉明5年(659年)に阿倍比羅夫が郡領を置いたと「日本書紀」に記されている地名(※日本書紀に記述されている地名が現在の羊蹄山一帯と同じ場所を指すとは限りません。)が、その由来となったとされています。ではアイヌの人々の呼び名はというと、マッカリヌプリやマチネシリ(雌山)となるそうです。マッカリは現在でも真狩村など地名として残っていますが、女性を表すマチネシリという呼び名はその優美な姿に由来するそうです。羊蹄山が女性なら、男性はというと、こちらは羊蹄山の南東にあるピンネシリ(雄山)。現在では尻別岳 (標高1,107m) と呼ばれています。並んで聳える2つの山景をみれば、なるほどその由来も頷けるところです。
さて、羊蹄山麓一帯にはふきだし湧水ほどの知名度はないものの、1日2,000トン以上もの流量で知られる湧水が、他に17ヶ所もあります。その中のいくつかを紹介してみましょう。羊蹄山を挟んでふきだし湧水の反対側に位置する真狩町の「羊蹄山の湧き水」。こちらは駐車場直結という利便性や湧水を使った手づくり豆腐店などで人気となっています。その他にもニセコ町さかもと公園の甘露泉、ニセコ町と倶知安町の境にある羆を模した通称「ゴン太の湧き水」などが知られています。意外なところでは、倶知安駅前公園にある水飲み場の水。「日本一の水」と看板に記されたこの水、倶知安町の水道水としても使われているそうです。ドライブや、鉄路の旅の途中下車などで確かめてみてはいかがでしょう。ただし、冬季には凍結することもあるそうなのでご注意を。


 

ミクロの世界で水の健康・衛生を監視する。

水道水質基準をご存知ですか。

農業王国でもある北海道は、他県に比べて耕地面積も広く、それに比例して農薬の使用量も多い傾向にあります。害虫の駆除や殺菌などを目的に散布された農薬の一部は、雨水とともに地中に浸透し、やがて地下水に含まれていきます。
地下水には農薬だけでなく、大気中の物質や土壌の成分など様々なものが含まれています。こうした地下水を水源とする場合や、環境の影響を受けやすい河川水の利用には、健康への害がないか等を調べる水質検査を行うこととなっています。
この検査は、水道水質基準に関する省令に基づき、厚生労働省が定める方法に従って行われます。水道水質基準は、目的や対象の異なる3種の項目から構成されています。その内訳は⑴水道水中に検出され、健康で生活に支障がないか検査が必要な水質基準項目(51個)、⑵検出値は高くないが管理を要する水質管理目標設定項目(26個)、⑶毒性・残存量は未評価だが、注意すべき要検討項目(47個)となっています。
農薬類は水質管理目標設定項目の1項目に分類されますが、実際に検査対象に指定されている農薬は120種類にも上ります。
当社に農薬の検査を依頼されるお客様のほとんどは上水道や簡易専用水道など取水量の多い企業・団体様です。その中には、地下水を上水道や農業用水として活用されている自治体様も多数、含まれています。
農業を主要産業とする北海道では、散布面積の広さもあり、農薬の影響にも十分な注意が必要とされているのです。

農薬の検査は試行錯誤の連続。

先程、現在、指定されている農薬は120種類と紹介しましたが、その検査方法は多岐に亘っています。
指定の検査方法に従って測定するだけの容易な作業と思われがちですが、そう簡単にはいきません。農薬によっては分析装置の配管に吸着しやすい性質を持つものや試料のpHのわずかな違いによって検出されないものもあるなど、一筋縄ではいかないことが多いのです。
検査結果に疑問がある場合は、分析条件や前処理の条件を再検証し、正確な測定値が得られるまで作業が繰り返されます。洞察力と繊細な神経、忍耐を伴う試行錯誤の連続ですが、仕事としての面白さを感じる瞬間でもあります。 年を追うごとに新しい農薬が開発される為、薬剤の組成や検査方法への対応など、日々の勉強は欠かせません。検査項目についても毎年新しい項目が追加されている状況ですので、その度に新たな試練と向き合うことになるのです。
農薬の検査をする上で、我々検査員の技術・知識が重要となるのは当然ですが、検査室設備の更新・新規導入も大きな課題です。例をあげれば、検査対象となる物質が空気中に存在している場合には、外気と遮断された清浄な空間での検査が必要となります。また、農薬の検査で求められる測定値は非常に低く設定されているため、高感度の測定機器で対応しなければなりません。
より高精度・高レベルの検査に対応するため、日本衛生株式会社では、最新設備の導入にも力を入れています。今年度も、2018年度からの本稼働を目標にグローブボックスや最新分析機器を導入し、調整・試行等の準備が進められています。このような、対応力に富む検査機関は北海道内でもあまりないのではないでしょうか。

確認作業の繰り返しが安全に繋がります。

今回は水道水質基準の中でも農薬の検査を中心にお話しました。検査だけに関していえば、別の検査機関でもできる仕事だと思います。しかし、農薬に限らず、当社に仕事を依頼して下さるお客様の信頼に応えるためには、正確な検査はもちろんのこと、スピーディな対応が求められます。また、あってはならないことですが、試料や検査項目の取り違えなどの人為的なミスについても十分に注意しなければなりません。そのため当社では、試料のナンバリングを基とした試料の受付、検査進行表の作成、検査結果の記入及び報告書の作成の各段階で複数の係員によるダブル・トリプルチェックを行っています。飲料水の安全に関わる水質検査には、検査精度だけではなく、管理体制の充実が求められることは言うまでもありません。

目には見えない安全を守る責任と誇り。

一般の方々は、上水道といえば市町村などの自治体が管理する公共の水道をイメージされるでしょう。しかし、大きな建物や施設などではコスト削減のため地下水などの自己水源を浄水処理し、飲料水として供給しているところが少なくありません。自己水源を有し、専用水道として運用するこれらの施設のなかでも、利用者数100人以上、1日の最大水量が20立方メートルを越える施設には、定期的な水質検査が義務付けられています。この検査で健康被害が予想されるなどの問題がある場合には、浄化したうえで飲用するようにとの指導が行われるのです。
札幌市内でいえば、ホテルや百貨店、商業施設、オフィス、飲食ビルなど、多量の水を使用する施設がこれにあたります。また、そのほかにも水道供給事業者様などから水質検査の依頼を頂くこともあります。
私たちの仕事は、大勢の方の目に直接触れる機会こそありませんが、健康で衛生的な環境で暮らすために、無くてはならない大切な仕事の一つです。その責任と誇りを胸に、私たち日本衛生株式会社環境分析センター職員一同は、日々の業務に邁進してまいります。

 

2017年12月発行/日本衛生広報誌「Water+ vol.4」より

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