WATER+ vol.3
2017年6月発行/日本衛生広報誌「WATER+ vol.3」
●摩周湖と神の子池
●多様なニーズに応える知識と技術を備えたプロフェッショナル集団であるために
阿寒国立公園が産んだふたつの湧水
摩周湖と神の子池
人類と地球環境の関わりを映し出す世界有数の透明度
摩周湖という名称については「カムイシュ」(神老婆)に由来する、「マシ・ウン・トー」(カモメの湖)からなど諸説ありますが、正確なところはまだわかっていません。それにしても摩周というこの文字、ものの見事に摩周湖の姿を表しているとは思いませんか。というのも摩は摩擦や摩耗など擦(こす)るという動作を表す漢字。周にはまわりという意味が含まれています。名前からもまるで大地を丸くキレイに切り抜いたような深い崖の底に、青い色を湛えて広がる湖の様相が浮かび上がってくるではありませんか。語源の解釈はさておき、命名者のセンスには脱帽です。かつて世界一の透明度を誇った摩周湖、その深くまで見通せるほどの美しい湖面は、摩周ブルーともよばれ、今もなお多くの人々を魅了してやみません。この神秘的なまでの美しさの理由には摩周湖の地理的な要因が深く関わっていたのです。
国土交通省ホームページにある「川と水の質問」では『河川は上流部から小さな河川が合流し、この合流を繰り返しながら徐々に海へ向かうにしたがい、大きな河川となっていきます。これら一群の河川を合わせた単位を「水系」といっています。』と説明されています。
では湖の位置づけは?というと。そのほとんどがそれぞれの「水系」に属するちょっと『太め』の川なのだそうです。日本最大の湖「琵琶湖」でさえ、法律上は一級水系「淀川水系」に属する「一級河川琵琶湖」とあくまでも川扱いです。
摩周湖の場合はどうなのでしょう。調べてみると他の川や湖との接点を持たないという理由から分類上は大きな水たまり。身も蓋もない表現ではありますが、別の見方をすればこれぞ摩周湖が世界に誇る環境的な特殊性の現れ。摩周湖を満たす水は阿寒国立公園の豊かな大地に降った雨が長い時間をかけて濾過されたものです。不純物の混入なども極めて少ないため、自然の中でもまれな純粋に近い水が、その美しさを描き出しているのです。
さらに魚はもちろんプランクトンなど他の生物とは切り離された水環境に加え、人や他の動物の侵入も容易ではありません。では、湖水に影響を与える最も大きな要因はというと、湖面に直接降り注ぐ雨。この特殊性から現在では大気汚染の影響を忠実に反映するモニタリング調査の対象ともなっています。私たち人類の生活が及ぼす地球環境への影響を教えてくれる世界でも数少ない貴重な存在でもあるのです。この環境を守るため、観光客や一般市民などはもちろん、マスコミや学術研究者などであってもカルデラ内壁内への立ち入りは厳しく制限されています。
川による水の出入りがないはずの摩周湖ですが、年間を通してその水位が変わることはほとんどありません。雪解けの季節や雨などにより増えた水は一体どこへ消えていくのでしょう。その疑問への答えは、1999年から行われた千葉大教育学部調査(※千葉大教育学部濱田浩美氏により「摩周湖の水位変動と周辺湧水の水質」日本陸水学会2002年府中大会で発表されました。)で明らかになりました。摩周湖の水は伏流水となり、虹別さけますふ化場など周辺への湧水となって再び地表にその姿を表していたのです。なるほどこれもロマン溢れる神秘の湖、摩周湖らしいエピソードに違いありません。さて、摩周湖の周辺と言えば、川湯温泉、仁伏温泉、摩周温泉など名だたる名湯が連なる温泉エリア。だとすると摩周湖にも温泉があるのではと想像が広がるのも自然な流れです。思った通り、水深212mとされる摩周湖の最深部から湧き出す温水の温度は1986年の記録によれば43.4℃。溶け込んでいる成分も豊富ということですから、これはもう立派な湖底温泉です。神秘の湖から湧き出す神秘の温泉、入浴こそ出来ませんが温泉マニアならずとも気にかかるお話ではありませんか。
摩周湖の地形は,火山活動によって内陸部に形成された淡水のカルデラ湖で、流出入する河川がないのに水位が変化しないユニークな自然現象をもっています。そして世界遺産に登録されているバイカル湖(ロシア)とともに世界有数の透明度であることで有名です。資料)国土地理院電子地図
青く輝く摩周湖の小さな姉妹
アイヌ語で「キンタン・カムイ・トー」山の神の湖という意味を持つ摩周湖。網走管内斜里郡清里町にある「神の子池」には、その名の通りカムイ・トーの伏流水から生まれた池との言い伝えがありました。しかし、千葉大教育学部による調査の結果、摩周湖と神の子池の水位変化には関連性がなく、摩周湖の外輪山に降った雨水が湧出して出来た池との説が有力となっています。言ってみれば摩周湖の小さな妹(弟?)といったところでしょうか。
周囲220m、水深5mの小さな池に湧き出す伏流水は1日1万2千トン。エメラルドブルーに輝く澄んだ水は、底までくっきりと見通せるほど透明感に満ちています。年間を通して8℃と低い水温のせいでもあるのでしょうか、青い水底に横たわる倒木は腐ることもなく、その姿を留めています。朱色の斑点を持つオショロコマが、倒木の間を縫うように泳ぐ景観は、神秘的なまでの美しさを感じさせずにはおきません。すっかり有名になった青い池に勝るとも劣らないその美しさは、いつまでも大切にしたい北海道の財産です。
多様なニーズに応える知識と技術を備えた
プロフェッショナル集団であるために。
その昔、恵まれた日本の自然や生活環境を象徴する言葉として“水と空気と安全はただ”という表現が当たり前のように言い交されていました。しかし、その常識は時代とともに変化し、今では私たちひとりひとりの中に自然や環境を守り、次の世代に伝えていくための意識を育てることが求められています。
1981年、時代の趨勢に先駆け、北海道の生活環境企業として誕生した日本衛生株式会社は、人と環境、暮らしと衛生を守る環境管理のスペシャリスト集団です。
その最前線に立つ営業部では、札幌を核に旭川・釧路・帯広・函館と全道各地を網羅する各支店・営業所ネットワークの連携で、水・空気・土壌の衛生環境改善に取り組んでいます。
各地で収集された情報は本社営業部に集約され、分析センターによる解析を経て、問題解決のためのシステム構築、情報共有による有効活用データとして迅速にフィードバックされます。
このレスポンスに優れた社内環境の背景となっているのが、検査・分析・管理に関わる技術力の存在です。博士号(環境科学)取得者をはじめ、環境に関わる資格認定取得者は全社員81名中、200名以上(重複資格取得を含む)にも上ります。また、2005年に民間企業では道内初となる厚生労働省「簡易専用水道検査機関」第95号として登録されたのに続き、2014年にはこちらも道内民間企業では初めてとなる水道GLPの認定(JWWA-GLP106)※を取得しています。この全社を挙げて環境と向き合う真摯な姿勢は官公庁・教育機関・医療機関・食品工場・ホテル・各企業等、環境の安全・安心を求める多数のユーザー様から高い評価を頂いております。
社会生活の安全と清潔を守るために、時としてネットワークよりも各部門の機密保持に重点が置かれるケースも少なくありません。例えば、今回取り上げた簡易専用水道における検査もそのひとつ。厳しいチェック体制と徹底した情報遮断管理により高精度の検査レベルを維持しています。必要と目的に照らし合わせて、調査・分析・技術・情報処理能力を自在に組み合わせて問題解決へと集約する企業としての現場力。それが私たち日本衛生株式会社の目指すプロフェッショナルとしてのあり方です。
※水道GLP:公益社団法人日本水道協会が平成16年9月に品質管理の国際規格である「ISO9001」と「ISO/IEC 17025」を基に、水道事業体や水質検査機関の検査精度と信頼性の確保を目的として策定され、水道水の水質検査に特化した認定規格。
水道給水システムの種類と特長
飲料水を安定供給する水道は社会生活を送る上で欠かすことのできない大切な施設です。普及率97%以上を誇る日本の水道。そのネットーワークの維持管理は、水道に携わる多くの人々の目に見えない努力の積み重ねで支えられています。私たち日本衛生株式会社も、安全・安心の水道水供給の守り手として日本の水道システムの一翼を担っています。
水道水を蛇口まで供給する仕組みには、一戸建てなどで使われている配水管の水圧を利用した直結直圧式、配水管の水圧に加え増圧ポンプを設置してさらに水圧を高める直結増圧式、そしていったん受水槽に配水管からの水を貯め、一定の圧力で多数の蛇口に安定供給する受水槽方式があります。大規模なマンションやオフィスビル、食品工場、スーパーマーケットなど多量の水を使用する施設では、この受水槽方式が多く見られます。その中で容量10㎥を超える大型の受水槽を持つ施設を「簡易専用水道」と呼び、法令で1年に一回以上の定期的な清掃と検査を行うことが定められています。
受水槽の仕組みと有効容量
受水槽に貯められた水が、各家庭の水道にどのように供給されているのかは一般にはあまりよく知られていません。実は受水槽内の全ての水が供給されるわけではないのです。受水槽内の水を上層、中層、下層と分けると、供給されるのは中層部分にあたります。つまり、水面に浮かんだり、下に沈殿したものなどを除いた中間のキレイな状態の水が各家庭に供給されていくという仕組みになっています。この部分を有効容量と呼びます。この有効容量の安心・安全・清潔を守るのが簡易専用水道検査なのです。
飲料&生活用水の安全・清潔を守る簡易専用水道検査
冬季に凍結の心配がある北海道では、ほとんどの受水槽は屋内に設置されていますが、温暖な本州方面ではその多くが屋外に設置されています。そこで問題となるのが、経年劣化や周辺環境などによる飲料水への影響です。穴が空いていたり、通気管やオーバーフロー管などのフィルター部分に不備のある場合は虫など異物が混入することも考えられます。また、裂け目から差し込む光による藻の繁殖や台風などの自然災害やいたずらなどで受水槽の蓋が外れてしまったり、隙間ができるなどの事態も起こりかねません。こうなると飲料水としてはもちろん、生活用水としての利用にも不安が生じます。そこで、安全、清潔、健康な環境を守り、おいしい飲料水を、利用者に届けるために行われるのが簡易専用水道検査です。この検査を行うには厚生労働省が認定する「簡易専用水道検査機関」への登録を必要となります。2005年、当社は北海道の民間企業では第一号となる簡易専用水道検査機関第95号として登録されました。2017年5月現在、札幌市内では当社以外に同資格を有する民間の団体・企業はひとつしかありません。
検査は貯水槽の構造部分を調べる外観検査・内部検査、水質検査の3点から構成されています。外観検査と内部検査では亀裂や傷、蓋やパイプ部分、金属部品の経年劣化の有無など構造部分の他、周囲にゴミが散乱していたり、不要な荷物が置かれていないかなど受水槽が設置されている周辺環境の整備も対象となっています。一方、水質検査では水のにごりや塩素の濃度などの検査が行われます。当社では簡易専用水道検査員の有資格者である12名の専任検査員により、飲料水の安全確保に努力しています。
水のある暮らしの大切さを考えて
2017年現在、当社が検査を担当している受水槽検査数は、札幌市内の場合で2300基ほど、しかし検査を必要とする受水槽はまだ数多く残されています。今年3月までボトリングされた水道水が「さっぽろの水」と銘打って販売されていた札幌市を始め、北海道は名水ともいうべきおいしい水の宝庫です。あまりにも身近ということもあるのでしょうか、毎年夏になると水不足の情報が流れる首都圏などに比べ、北海道では水への意識があまり高くはないように感じられます。また、ふだん目にすることもあまりないだけに「受水槽って何?と疑問を抱く方もたくさんいらっしゃるでしょう。しかし受水槽は、私たちが快適な社会生活を送るための大切な設備という以外に、地震などの災害で水道の供給が停止した場合にも大量の水を確保・供給できるというメリットもあります。この機会に、目には見えない水の大切さについてもう一度よく考えていただきたいと思います。
2017年6月発行/日本衛生広報誌「WATER+ vol.3」より